地域食品の海外展開:小ロットから始めるオンライン海外販路多様化戦略
はじめに
地域ならではのこだわりの食品を海外へ届けたいと考える事業者は多くいらっしゃいます。その際に、まず検討されるのが越境ECモールへの出店でしょう。手軽に始められる反面、多くの競合の中に埋もれてしまったり、プラットフォームの規約変更に影響を受けやすかったりといった課題も存在します。
特に、小ロットでの生産・販売を基本とする事業者の場合、特定のプラットフォームに依存せず、柔軟かつ多様な方法で海外の顧客にアプローチすることが重要となります。本稿では、越境ECモール以外にも存在するオンラインの海外向け販売チャネルを、小ロットからでも始められる視点を交えながらご紹介し、多角的な販路構築戦略の重要性について解説します。
オンライン販路を多様化する意義
なぜ、越境ECモール以外のオンライン販路も検討する必要があるのでしょうか。主な理由として以下の点が挙げられます。
- リスク分散: 特定のプラットフォームの仕様変更やトラブルに左右されるリスクを低減できます。
- 顧客層の拡大: プラットフォームごとに異なる顧客層にリーチできる可能性があります。
- ブランドコントロール: 自社の世界観やストーリーをより自由に表現し、ブランドイメージを確立しやすくなります。
- 収益性の向上: プラットフォーム手数料に左右されず、利益率を高められる場合があります。
- 顧客データの活用: 顧客の購買データや行動データを直接取得し、マーケティングや商品開発に活かせます。
これらの利点は、特にスタートアップや小規模事業者が持続的に海外展開を進める上で、大きなアドバンテージとなります。
小ロットから始めるオンライン海外販路の選択肢
小ロットでの生産・販売を基本とする地域食品事業者が検討できる、オンラインの海外向け販売チャネルには、主に以下の選択肢があります。
1. 自社ECサイト(D2C)構築
自社のウェブサイト内にEC機能を構築し、海外の顧客に直接販売する形態(Direct to Consumer)。
- メリット:
- 自社のブランドイメージを最大限に表現できます。
- 顧客データを詳細に取得・分析できます。
- 柔軟な価格設定やプロモーションが可能です。
- プラットフォーム手数料が不要なため、高収益化を目指せます。
- デメリット:
- ウェブサイト構築・運用にコストと技術知識が必要です。
- 集客を自社で行う必要があります(SEO、広告、SNS活用など)。
- 海外向け決済システムや国際配送の手配を自社で行う必要があります。
- 小ロット対応の視点:
- 特定の国や地域にターゲットを絞り、初期の運用負荷を軽減できます。
- 国際配送サービスと連携し、小口発送に対応します。
- 活用ツール・サービス: Shopify, Squarespace, WooCommerce (WordPressプラグイン)など、海外向け販売機能を備えたECプラットフォーム。
2. SNSを活用した直接販売
InstagramやFacebookなどのSNSプラットフォームの販売機能やDM(ダイレクトメッセージ)機能を活用し、海外のフォロワーやコミュニティに直接販売する形態。
- メリット:
- 海外の若年層を含む潜在顧客に手軽にリーチできます。
- ファンとの距離が近く、エンゲージメントを高めやすいです。
- 比較的低コストで始められます。
- デメリット:
- SNSプラットフォームの規約変更に影響を受けやすいです。
- 決済や配送の手配を個別に調整する必要がある場合があります。
- 本格的なECサイトに比べ、管理機能は限定的です。
- 小ロット対応の視点:
- DMベースで限定数を受注販売するなど、柔軟な対応が可能です。
- 新商品や季節限定品を少量だけテスト販売するのに適しています。
- 活用プラットフォーム: Instagramショッピング、Facebookショップ、TikTokショッピングなど(利用可能な国・地域や機能は要確認)。
3. 海外向けオンライン卸売プラットフォーム
海外の小売店やレストランなどの事業者向けに、オンラインで商品を卸販売できるプラットフォーム。
- メリット:
- BtoBの新たな販路を開拓できます。
- 比較的まとまった数量の受注に繋がりやすいです。
- プラットフォームが集客の一部を担ってくれます。
- デメリット:
- プラットフォームが設定する手数料や条件があります。
- プラットフォーム内での競争が生じます。
- ブランドコントロールの自由度は自社ECサイトに劣ります。
- 小ロット対応の視点:
- 交渉次第で最低発注数量(MOQ)を調整できる場合があります。
- 試験的に少量のラインナップで参入することも可能です。
- 活用プラットフォーム: Faire, Ankorstoreなど(食品・飲料カテゴリに対応しているか確認し、自社製品に合ったプラットフォームを選定します)。ニッチな食品・飲料業界に特化したプラットフォームも存在します。
複数の販路を組み合わせる戦略
これらのオンラインチャネルは、どれか一つに絞るのではなく、組み合わせて活用することで相乗効果が期待できます。例えば、
- 自社ECサイトをブランド発信と主要な販売拠点とし、SNSは集客とコミュニティ形成に活用する。
- 海外向けオンライン卸売プラットフォームでBtoBの基盤を作りつつ、並行して特定の国の消費者向けに自社ECやSNSでD2C販売も行う。
- 越境ECモールを引き続き活用しながら、並行して自社ECサイトで高付加価値商品の販売や限定プロモーションを行う。
小ロットから始める場合、まずはリソースを集中できるチャネルから開始し、徐々に他のチャネルへ拡大していく段階的なアプローチが現実的です。自社製品の特性、ターゲット市場、そして運用体制に合わせて、最適な組み合わせを検討することが成功の鍵となります。
まとめ
地域食品事業者が海外展開を目指す上で、オンライン販路の多様化はリスク分散と成長の機会を広げる重要な戦略です。越境ECモールだけでなく、自社ECサイト(D2C)、SNS販売、オンライン卸売プラットフォームなど、小ロットからでも始められる多様な選択肢が存在します。
それぞれのチャネルにはメリットとデメリットがあり、自社の状況に合わせて最適なものを選び、あるいは組み合わせて活用することが求められます。デジタルツールやサービスを賢く利用することで、地理的な制約を超え、世界中の顧客に地域の食の魅力を届けることが可能になります。まずは一歩踏み出し、オンラインでの多角的な海外販路構築に挑戦してみてください。